ですが語らせてください。とても良かったので。
2020年に公開された、藤原季節主演、内山拓也監督の作品です。
知人にゴリ押しされてNetflixで観たのですが、その時の知人の推薦の仕方が、「よく分からないんだけど良い」といった曖昧模糊とした勧め方で、あと、リアルさが全面にある、カラオケのシーンがマジ良い、といった旨のことも協調されていたと思います。
観終えた今の僕にも、その曖昧模糊感がとても良く分かります。「なんか良い」、これに尽きるのです。
そして、その曖昧な、言葉で表現できないその感覚こそが、僕達が生きているこの世界にとって、とても大事なんではないかと、そんなとても大袈裟なことをマジで思ってしまいました。
それくらい良かったです。
ざっとあらすじを説明すると、
上京してきて、うだつの上がらない日々を送っている役者志望の主人公(27歳)が、ある日、高校の時の同級生に偶然出会います。
その際、高校時代に仲の良かった、とある人物「佐々木」の話になります。
「佐々木」は、クラスのムードメーカー的存在で、例えば、クラスメイトが「佐々木コール」をすると、そこが女子がいる場所だろうが、どんな場所だろうが、必ずみんなの期待に応えて脱いでしまったり、不良に絡まれた時も、何度投げ飛ばされようとも、自分の正義のもとに何度も何度も立ち向かっていったりします。
そんなある種、無茶苦茶な存在な「佐々木」に、どこかみんな魅力を感じて惹かれています。
そして色々紆余曲折あって「佐々木」とは別れてしまうのですが、疎遠になっても主人公の心には「佐々木」がいて、「佐々木」がどうやら心の糧になっているようです。
そして物語は劇的ともとれるクライマックスへと行くわけですが、この終わり方も、「佐々木」節全開の終わり方になっています。
・・・自分で書いていても、あまりうまく説明できていないのが分かります笑
でもこのうまく説明できない、それこそが、「佐々木、イン、マイマイン」の本質なんだと僕は思います。
でもまぁ、一言で簡潔に言ってしまえば、純度100パーセント混じりっ気なしの超ド級青春映画、ということですかね。
なんと言っても、この映画の一番の魅力は、リアリティ的演出だと思います。
例えば、主人公が、高校時代の友人に偶然出会って、居酒屋で呑み交わすシーンがあるのですが、その時の会話の空気感が、演技っぽくなく、まさにリアルなテンポ感や間(ま)で、しだいにケンカへと発展していくその過程も、リアルな間を保ち続けていました。
また、知人が勧めてくれたカラオケのシーンも、一緒に歌いたくて勇気を出して女の子を誘う所や、その時の女の子の絶妙な反応など、とてもリアルというか自然で、知人がゴリ押ししていた意味がよく分かりました。
少し話を逸れますが、僕はこのリアルな会話や空気感を、「涼宮ハルヒ」や「けいおん」、「氷菓」などでお馴染みの、京都アニメーションでも感じとることができていました。
何気ない会話のやりとりの間や、動作や所作、雰囲気、または人間の生活の機微とでもいうんでしょうか、それが見事に演出されているんですね。
特に間(ま)ですかね、そこが秀逸でした。
京アニの真髄は僕はそこにあると思っています。
話しを映画に戻しますと、正直僕は、最初の15分くらいで、この映画観るのやめようと思ったんですよね。
それは、役者さん(主に主人公)の演技が下手くそというか、なんというか、すごい素人感丸出しの演技じゃねえか、と思ってしまったんです(「佐々木役の細川岳さんは最高でした)。
しかもオマケにドキュメンタリーというかリアルな演出までも施してて、これはかなり「やっちゃってる」映画だと思ったんですよ。「個性出してまっせ」映画というか。
でも、その役者さんの演技も含め、観ている内に、不思議とどんどんハマってしまっている自分がいて。佐々木にハマってしまっているというか、自分の中の佐々木を見つけたというか、佐々木インマイマインというか。
観ている内にこの映画に馴染めてきてしまっていて、しだいにすごく引き込まれてしまっているんですよ。
正直よく分からないシーンとかあるんですけど、それも含めて、「リアル」だと思わされてしまう。そのよく分からなさが、この僕達のいる「世界」なんだと。勝手にそう思わされてしまう。
ネタバレはしたくないので、最後の結末は言いませんけど、僕がとても心を打たれてしまったシーンだけ言及させてください。
それは、とある赤ちゃんが泣いてしまって、その赤ちゃんを抱えている主人公もつられて泣いてしまう、というシーンです。
僕は、そのシーンにこの映画の全てが詰まっていると感じました。
というか、この世界の真理が詰まっているといっても過言ではないかもしれません。
赤ちゃんがただ泣く、その圧倒的な生命力、またはイノセントの輝きに、とても胸を打たれ、僕もそこで自然と涙が流れてきていました。
理屈うんぬんではない、「純粋さ」、または、「自然さ」、「そのままさ」、それがこの「世界」、それらを一気に感じて、この映画全編に施されている「リアル」な演出の意味が分かった気がしました。いや、「意味」とか言ったら駄目なんだと思います。そういう理屈や言語を超えたところに、この映画の本質があると思うので。
だから語ることが野暮なんです。語ってしまったら、この映画の良さがなくなってしまう。
だからとにかく観てほしい。それしか言いようがなくなるんです。
僕は、「セッション」というジャズドラマーの映画も好きなんですが、その映画にもそれを感じました。最後の演奏なんて圧巻でしたよ。マジでドラムの音だけで聴かせる。マジ熱かったです。観てない方はぜひセッションもどうぞ。
「佐々木、イン、マイマイン」には、King Gnuの井口さんなんかもチョイ役で出演されていて、そこも見所でしょうか。
あくまでも、以上のことは、当たり前ですが僕の解釈による感想です。別の人が観れば、また別の感想を当然抱くと思います。殊更この映画は多様に解釈可能だと思うし、それが芸術の良いところではないでしょうか。
というわけで、「佐々木、イン、マイマイン」、なんか分からないけど良い、マジ熱い、ド直球に青春映画です。
観てない方はぜひとも観ていただきたいです。
それでは!